doublubonのブログ

色々なことについて書きます

北一輝とかいう大天才

 先日も書いたが、私は今自主ゼミに向けてレジメを執筆中である。ちょっと疲れたので休憩がてら記事を書こうと思う。

 

 今俺らが取り組んでいるのは戦前の右翼思想家にして国家社会主義者「北一輝」最初期の著作であり代表作の『国体論及び純正社会主義』である。使っているのは↓の最新版。

 

増補新版 北一輝思想集成

増補新版 北一輝思想集成

 

 

 まーあこの本はとんでもなく重い。思想的にも内容的にも(勿論物理的にも)、である。簡単に概略を説明すると、

「ブルジョワのクソどもがクソ学者と手を組んで庶民を搾取している。俺たちはそんな世の中が我慢ならん。労働者を啓蒙して市民としての自覚を持たせ、協同的労働組織を創って社会進化によって社会主義的世界連邦を成立させてあらゆる階級間の不平等や格差を根絶するぜ!つか階級そのものをなくすぜ!」

 こんな感じである。非常にざっくばらんに書いたので頭悪そうだが、まあその議論の内実は精緻を極めるものだ。この人はよく造語を用いて持論を展開するんだが、「経済的戦国」とか、いちいちセンスが良い。と同時に詩人的な言葉選びの上手さもあり、さすが自由恋愛論者はロマンチストなのか?とでも言いたくなるくらいのものである。例示してみると、


「宇宙の美は恋によりて作られたる者なり」

「今日の男子にして一切階級の虚飾を剥奪せる裸体の女子を諸手に抱きて、吾れ(われ)は爾(なんぢ)の美に向って二世を契るべしと広言し得るもの果して幾人ありや」

 

うーんかっこよすぎる。読めばわかるけど、いちいち雄弁なんだよね。戦前の右翼ってのはここまで力強くてかつ頭が良かったのかと、思わず感嘆の声をあげるくらいだ。とはいえ、思想的にはマルクス主義とヘーゲルの歴史哲学、それからダーウィンの進化論を掛け合わせたような感じで、むしろ今の左派的なものなんだけどね。

 この本の刊行が1906年元号に直すと明治39年なんだが、すでにこの段階で世界連邦というある種今の国連にも似た国際組織論を展開しているのは甚だ興味深いところがある。加えて北の主張は「遍く世界の労働者と連帯し、社会進化の範囲を徐々に拡大していく」というもので、普通に考えたらマルクス的なインターナショナリズムそのものなんだけど、その前提に世界連邦創設という構想があるということは、ある程度コスモポリタニズムをも志向していたのではないかな、とも思ってしまう。しかも驚くべきは、この本を執筆した時の北はなんとまだ23歳である。佐渡島から早稲田に聴講生としてやってきたが、早稲田の教授陣があまりにも頭が悪く「これなら別に授業受けなくてもいい」となって早稲田を後にする、という逸話はよく知られているが、ただでさえ難解なマルクス主義をかみ砕き、さらにダーウィンの生物進化論を批判しつつ自分なりに補完して社会進化論へと繋げるその手腕は鮮やかとしか言いようがないものだ。2.26事件で捕えられ処刑されたのが非常に惜しい。生きていれば日本有数の思想家に名を連ねていたのではないだろうか。

 

 なんか得体の知れない人、というイメージが強いが、実際著作を読んでみると驚くほどに綿密、かつ読ませる文章を書く著述家だということがよくわかる。こんな大天才は今後日本でも登場しないかもしれない、というくらいには。時間がある方は、伝記等も刊行されているのでお読みになってはいかがかしら。